最終審査講評




●大野広幸(写真家・著者)
審査内要として
1、10年後を比較しているか。
   今回の作品はただ双子が似ているだけの比較ではなくて、
   10年の経過によって性格や環境の変化とともに
   2人が変化して行く成長過程を表現している。
2、キャプションを書いているか。
   写真に付け加える事によって、双子自身の内面心理の変化を理解する事が出来る。
   よりいっそう、ストーリー性を増幅する役目を果たしている。
3、スクエアサイズの意味を理解しているか。
   なぜ正方形のフィルムサイズを選んで撮影したかと言うと、
   2人を立たせた時にフレーミング内における左右の空きバランス(背景)が良くなる。
   そのためにトリミングをしてしまうとバランスが崩れてしまう。
4、写真集の全体の大きさに対して写真を適格に配置しているか。
   余白の取り方によって全体のバランスが悪くなる。
   (余白が有り過ぎて写真が小さくなっている作品があった)
以上を審査対象としました。その結果、全てを充たしていたのは、横越英実さんデザインの「きょうあしたふたり」の作品でした。
 ※ページをめくる事によっての10年の変化がどのようになって行くかが楽しみのレイアウト。
 ※左右に10年前、10年後を対比させるページを設けて一遍等なレイアウトを変化をもたらせていた。
 ※余白ページを無駄なく上手に使っていた。(イラスト等)


●橋村芳和(京都市会議員)
双子のご家族には、大変なご苦労があるとお聞きします。経済的にも 同時期に二重に必要なものだらけでとても大変だと思います。 その反面、子育て成長は両親にとってきっと人一倍喜び深いものでしょう。 双子の家庭を持つ多くの人々に勇気を与えるそんな心が伝わる本になればと、 最終の完成と発刊を楽しみにしています。


●北憲一(京都芸術デザイン専門学校ビジュアルデザインコース主任)
佐治淳二「フタツナガリ」
シンプルでとてもスマートな印象のデザインは、作品と作家の知性を感じさせるうえで十分と感じた。 しかし、作品の時系列をあえて無視した構成は作家の意図を伝えるうえでマイナスとなった。商品性の高いデザインだったと思うが、以上の理由から選外とした。
辻祥子「ニコニコ」
最近の10〜20代の感性が手に取るように伝わるデザインで、個人的にはおもしろいと感じた。また、コンセプトも 作家の意図を汲んでいて、明快でよかった。ただし、作家の作品集としてはあまりにもカジュアルな印象を受けるため、今回は残念ながら選外とした。
横越英実「きょうあしたふたり」
審査会で指摘があったように、カンプ上では確かに仕上げの粗さが目立つ部分もあった。一方で、作品集全体のボリュームや構成、 キャプションを含めた誌面レイアウト、表現上の工夫等に本件を丁寧に扱おうとした姿勢が見られ、 総合力で他を上回った。プロの編集・制作作法を学びながらよりよい作品集に仕上げてもらいたい。
森薫「向かい合わせの肖像」
体裁やデザイン、特にカバーから表紙にかけての凝り方に強い個性を感じた。 おそらく、デザインに独自性をあらわそうと、悩みながらも かなりの試行錯誤を繰り返したと思われる。そんな姿勢を感じて一票を投じたかったが、 キャプションの抜けが選外を招いた。


●日沖桜皮(編集プロダクション桜風舎・出版社コトコト取締役・京都精華大学人文学部編集技法非常勤講師)
最終審査に残った4名による、いろいろな試行錯誤のあとがうかがえるすばらしい作品を拝見し、たいへん嬉しく思いました。 紙媒体の危機が叫ばれるなか、「物体としての魅力に満ちた」完成品を心待ちにしたいと思います。
私が思う、今回のポイントは下記です。
1)「10年後の作品との対比」をいかに表現するか
2)キャプションは必須
3)写真を大きく、たくさん見せる
最優秀賞の『きょうあしたふたり』は、上記の3点を見事に満たしていたと思いま す。
ソフトカバー、ダブルトーンとすることでコストを節約し、その分をページ数に充当 した判断も適切だったと思います。デザインも、写真を邪魔せずかつ少々の遊び心があり、テイストとして大野先生の作 品に適っていたと思います。
ただ、忙しいなかの作業とはいえ、残念だったのは、作法が雑であったこと(「技術 が未熟」とは違います)。版面が安定せず、写真の大きさもいくつかのパターンがあるわけではなく微妙にバラ バラ。左右でノドのアキがちがったり、ノンブルの「イキ」「隠し」の規則性もわから ず・・・。
こうした「作法」「ルール」部分への心配りは、基本中の基本ですのでしっかりと 守っていただきたいと思いました。
優秀賞3作品も甲乙つけがたいものでしたが、上記の3点を満たすものは存在せず、 その点では最優秀賞との差は少々大きかったといわざるを得ません。 ただ、随所に、応募者の創意工夫やデザイナーとしての資質を垣間見ることができた のは嬉しく思います。
とりわけ『向かい合わせの肖像』は、ページものの媒体において大切な、全体の統一 感やデザインルール、作法がしっかりしており、大学1年生としてはひじょうに高い レベルにあると感じました。ただ、今回は上記の大きなポイントの判断において少々 ミスジャッジになってしまったことが残念です。


●樋野康二(大平印刷制作部部長)
審査のポイントは、「昔の写真」「成長後の写真」が対比しながら見ることができるか、そして、写真についてのコメントが入っていること。これは最低条件である。
「きょうあしたふたり」は
対比、コメントもあり、グラフィックデザインも写真を邪魔せずうまく消化できていたと思う。総合的に今回の企画主旨にあったトーンにまとまっていたので選出した。
対比写真を挿入するのはいいが、見る側の流れやリズムを崩し混乱させている部分もあった。そこが解消されれば、さらに良いと思う。
「ニコニコ」は
コメントが無かったことで選からもれた。しかし、ストレスなく対比を見ることができた。とはいえ終始対比ばかりのページで単調になってしまった。 また、写真が小さかったこと、写真の周囲のオレンジ帯が結果写真を邪魔した事、扉のデザインもマッチしなかった事なども 選からもれた要因となった。
以上が、うまくいけば結果は大きく違ったと思うので残念でならない。
「フタツナガリ」は
対比が無かったことで選からもれた。対比できたものを見てみたかったので、こちらも残念。


●浅野泰弘(出版社光村推古書院代表)
この写真集には「時間」というコンセプトがとても大切なところ。決して双子の品評会ではなく、 彼女達と共に写る風景、家、一緒に成長した母、人間性などの変化の「時間」を観る写真集であるといえる。 最優秀賞の「きょうあしたふたり」が他の作品にくらべ、10年の二枚の写真を次頁に跨がせたのが上手いと思った。 彼女達が10年後にどうなったんだろうという頁をめくる楽しみ、「時間」を感じることができる作業を 読者に与えた構成だった。
キャプションはその人物を想像させるものなので、デザインにうまく組み込めるのであれば是非ともあった方が良い。
本のタイトルについては「向かい合わせの肖像」というのが最も営業的には良かったと思う。 「ニコニコ」は大変おもしろいタイトルだが、本の内容が分かりにくくなりすぎると販売にはマイナスとなる。


●浅井潤一(出版社マリア書房元編集部長・現亥辰舎編集長)
学生らしい思い切った構成にはとても感動しました。
あえてキャプションを入れなかったり、また10年後というテーマを捨てての再構築は なかなかプロの現場ではその選択が頭にない方法です。
このコンテストは、学生たちにいくつかのチャンスを提供するとともに、我々にも大変刺激となった プロジェクトだったと思います。
悠久の歴史の街京都で文化を紡ぐ若者たちが「出版メディア文化」 の使命を考え、商材としてのメディアに偏り過ぎることのない本当の意味の出版界を 今後先導していってくれることを期待し、参加していただいた全ての応募者と関係者に心より感謝申し上げます。




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